海のロランティーヌ

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殺気 をどうフランス語に翻訳するか

ちょっといきなり物騒なテーマですが、ふと知人から質問があり考え込みました。この人は日本の漫画を出版社用に翻訳する仕事をしています。
私がパリにいたときの仕事の一つは、こういった翻訳上の難問、つまりフランス語になくて、フランス人翻訳者がさじを投げてしまった単語を、注釈文をつけずになんとか意訳する担当でした。


よく違法アップロードアニメなどは素人あるいは最近だと自動翻訳の翻訳が充てられており、そのため画面中が注釈まみれになることがあります。(NDT= Note De Traducteur つまり 「翻訳者による注釈」と呼ばれるもの)
しかし長いNDTを入れると読者あるいは視聴者の注意が逸れてしまうため、特にテレビ番組の場合、ワンシーンにつき字幕にいれら

 

れる文字数に制限がありますし、子供向けアニメになるとなおさらです。
また英単語で変換することも基本的には禁止されている(フランス語文化守護のためで、守らないと罰金を払うことになる)ので、なかなか見極めどこがむずかしいです。
例えば は、仮に「この武器で攻撃をブーストさせる!」というセリフがあれば、booster はもうフランス語化しつつあるといえますので使っても大丈夫でしょうし、「怪我した場所はアイシングしておけ」というセリフがあれば、icing は一般的な表現ではないのでスポーツ専門番組でもない限り refroidirと翻訳すべき、という見解になります。 (アイシングは英語の場合 ice のほうが一般的な上、フランス人にとって馴染みのない単語、かつ「怪我したところを冷やす?なんで?あっためるんじゃなくて?」と違和感をおぼえる人が多い)

 

そこでこういった翻訳者たちの手を煩わせないように中間・最終チェック係として配備されていたわけなのですが、多くの翻訳者たちが相談してくる、いわば「あるある」な悩みのうちの一つが、この「殺気」という言葉です。
これは、本当にどの翻訳者も頭を抱えていて頻繁に相談されるのですがちょっと面白いです。
ちなみに英訳を見ると、

 

 

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こうなっているのですが、なんだかナイフの刃を舐めながら狂喜する殺人狂みたいなイメージですよね。やはり日本人が日本語で感じるものと異なるのでなにか他の言葉でカバーしないといけないことになります(それぞれの文脈によって異なるので、今ここでちょっと一概にこの単語でOK!というのは言えないです)

 

翻訳の仕事はAIがすることになるよねーそのうちgoogleが開発してくれるからなんてよく聞きますが、ものすごい経歴をもつ苦悩する翻訳者たちを見ていると、そういう日が来るのはまあ不可能かものすごい遠い日ではないかなと思っています。




掲載のレシピにつきましては、レストランに提供しているものもありますので、無断での転用などなさらないようよろしくお願いします。
なにか特別の事情があります場合は事前にご相談ください。